2020年1月25日(No.5)

「インド経済の可能性②-歴史的な見方-」

勝池和夫

今回は、インド経済の可能性を歴史的に他国・他地域と比較し見てみます。

上のグラフは、イギリスの経済学者アンガス・マディソンが推計した購買力平価ベースの世界のGDP構成比の推移です。それに、写真と構成比の数字(世銀調査)を加えました。

インドは緑のラインです。インドの経済は元々西暦1年頃、世界の約33%を占めていました。それが17世紀から英国の進出、植民地化などを経て衰退し、そのシェアは1947年の独立後も3%近くにまで下がり続けました。ようやく底打ち感が出てきたのは1970年代からです。

中国の経済は茶色のラインです。19世紀の初めにはやはり世界の3分の1を占めていましたが、1840年のアヘン戦争を境にそのシェアは急落し、文化大革命の1960~70年代の頃は世界の約5%で低迷します。その方向を大転換させたのは鄧小平(写真)が実施した改革開放政策です。1978年のことで、それ以来中国経済は誰もが予想しなかったスピードで成長し、シェアは既にアメリカ経済を凌駕し現在18%を超えています。

一方で黒いラインの西欧の経済は、18世紀後半から19世紀にかけて起こった紡績機の発明や蒸気機関の開発などの産業革命(イメージ写真)を契機として、印中経済の凋落を尻目に発展し、20世紀の初め頃にシェアは世界の約3分の1でピークを付けています。

現在世界最大の青いラインのアメリカ経済は、19世紀後半の大陸横断鉄道(写真)などのインフラの完成が起爆剤となり、20世紀の半ばには黄金期を迎えます。しかし、近年ではアジア経済の台頭を受けて、そのシェアは低下傾向です。

最後に日本経済は、グラフの下の方で1950頃までほとんど横を這っていた黒いラインです。その後、戦争からの復興期には急速な都市化が経済発展の大きな原動力になりました。新幹線の開業(写真)も東京五輪の開催も都市化に大きく寄与しました。しかし、1990年代からは経済成長に陰りが見え始め、70~80年代に2桁近かったシェアは、現在戦前に逆戻りし約4%に低下しています。まさにこの時期が、「失われた30年」です。

さて、これからのインド経済を考えた場合、私には西欧、アメリカ、中国、日本の経済を発展させた4つの成長エンジン(産業革命、インフラ整備、強いリーダーの登場、急速な都市化)が同時に作動しているような印象を受けます。3%にまで小さくなったインド経済のシェアは、昨年7.7程度まで拡大しましたが、ナレンドラ・モディ首相(写真)の2期目に入ったこれからは、それら4つのエンジンに加えて、世界企業のサプライチェーンのインドへのシフトも加速すると予想されるため、再び2桁に達していくと期待されます。

このように世界の経済大国の興亡の歴史を見ていると、インドは「新興国」というより、歴史的には「再興国」と呼ぶほうが相応しいのかも知れませんね。

目先はともかく、インド経済の将来は大変楽しみです。