『マッチ擦るつかのま海に霧ふかし』

千葉の県人 鎌田 留吉

アベノミクスが行き詰まりつつある。三本の矢それぞれが限界を露呈しつつある。 しかし、何よりも株高を演出して、高い支持率を獲得し、彼が本来的に実行しようとしていた諸政策そのものへの批判が肝心の支持率を押し下げようとしている。外的要因が株価下落を促しつつあるだけではなく、内部から土台が揺らぎつつある。

明治維新以後中央集権を推進し、戦後も都市に人口を集中させ高度成長をなしとげた日本の弊害を是正するかのポーズが見られる。曰く「地方再生」。今、東京・神奈川・千葉・埼玉に住む人々の2代前の出身地は何処なのだろうか?今、お盆の真っ最中で帰省中のひとは自分の入るお墓を何処に予定しているのだろう?金の卵とおだてられ東京へ東京へと連れられた人々の子供は何処に住まいを定め、自分のお墓を何処に定めるのだろうか?今、自分がすんでいる家の側に小学校の頃の友達はいるか?中央官庁に権力と税収を委ねたまま、地方再生が可能か?今、あなたは自分の住んでいる地域を「愛している」といえるほどに愛していますか?

安倍政権の周辺の様々な綻びのなかでひとつだけを取り上げよう。それは武藤貴也という衆議院議員が「SEALDs」という学生達の反戦グループのデモを評して「彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだと思うが、非常に残念だ」と述べていることである。私が彼のブログを開いてみると、「私には守りたい日本がある。先人たちがこんなにすばらしい国を残してくれたのだから」とあった。こんなにすばらしいの内容は記載されていなかった。随分と前から企業は日本を脱出した。海外生産比率の高い企業を株式市場は高く評価するうようになって久しい。そして今、日本の富裕層も少しでも有利な税率を求めて海外に移住するひとが増えてきている。7月26日の日経には、「08年に出国税を導入した米国では『国外離脱者が3倍に増えた。一定のお金さえ払えば恥ずべき行為ではなくなったためだ』」とある。脱走兵は無論恥であった。モハメッド・アリが良心的兵役拒否でチャンピオンの地位を剥奪されたとき、やはり家族たちは恥じたであろう。 「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」昭和33年の寺山修司の歌である。


2015.8.15記