「比較的安全性が高いとされる円が買われる」

千葉の県人 鎌田 留吉

イメージ日銀がマイナス金利を発表した1月29日直後は、日米金利差の拡大を囃して一時的にドルが買われたものの、その後は急激な円高に転じた。121円だったものが瞬間110円台をつけ、10日間の上昇幅は10円を超えた。この急激な円高を形容する際に必ず使われるのが、「比較的安全性が高いとされる円が買われる」という文言である。

この言葉は何かを語っているのだろうか?

  1. どこの通貨と比較しているのだろうか?
  2. 安全性が高いとは何がどんな風に安全なのだろうか?
  3. 円を買っている主体は誰なのだろうか?

おそらく、ここ10年近く「有事」=リスク・オフの際に「有事のドル買い」という言葉が全く妥当せず、円が上昇してしまう現象をこの様に表現する慣行ができたということなのであろう。

円が買われるとき、多くの人は外国人がその主体であることを当然のように想定する。

「だって円を買うのだから、外国人に決まっているじゃん」。確かにヘッジファンド達は「日本の株高と円安」「日本の株安と円高」をペアで仕組み、ポジションをとり、絶妙のタイミングで仕掛けてくる。しかし、その仕掛けに呼応するというか、嵌って円を買わされる多数の人々がいなければこのような急激な円高は生じないのだ。

その無数の、良い言葉を使えば「子羊たち」、悪い言葉を使えば「愚か者たち」とは、日本人である。

ひとつのグループは、かの有名な「ミセスワタナベ」である。パソコンで為替に関する情報を調べるとFXの宣伝がこれでもかと流れる。しかもFXでは売った通貨の短期金利を支払い買った通貨の短期金利を受け取れる。つまりイエレン氏が発動した米金利の上昇は日米金利差を広げ支払うべきゼロ金利ともらうべき米金利の差を広げた。更にこのまま行けばドル円は130円を試さざるを得ないだろうと、テレビに良く出る、株式評論家や・為替の専門家がおっしゃっているから、10円もの為替差益さえ取れる。こうして「ミセスワタナベ」は、12月16日の米利上げ以来、胸をときめかせ、円売りドル買いのポジションを山のように積み上げていった。こんなに確実でおいしい話はないのだから、レバレッジ゛を目いっぱいに効かせて‥‥しかし、これらのポジションはドルが一定の水準を割って下げてくると、円買いドル売りで踏まざるを得ない。無論成り行き円買いで!

もうひとつのグループとは、日本の外貨準備151兆円を上回る160兆円もの中長期債の買いを積み重ね、更に投資ファンド64兆円を保有している「公的部門」と「銀行部門」を除いた「その他部門」の日本人たちである。

(2014年末本邦対外資産残高)

2016.2.16.深更 記