『購買力平価説への疑問』

千葉の県人 鎌田 留吉

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筆者近影

為替の決定要因について調べると必ず「購買力平価説」というものが出てくる。一物一価、同じ物は世界で同一価格であるべきだ、というのである。私は当初から、果たしてそうなのかな?と訝しんできた。なぜなら現実は違いすぎるではないか?

先日、後輩に誘われてタイのバンコクに行ってきた。バンコクで1万円を両替した時の為替レートは1バーツ3.3円であった。バンコクの飛行場内にあるコンビニでコカ・コーラは14バーツであった。つまり日本円で46.2円である。日本でコカ・コーラはコンビニで140円(税抜き)である。つまり、日本の方が3.03倍高いことになる。コカ・コーラの値段は同じであるべきではなく、むしろ何故値段が違うのかを考え始めた。今日はその初歩的な疑問を提示して大方のご教示を仰ぎたい。

これが同一価値になるためには、バンコクのコーラの単価が上昇するか、又はバンコクの為替が対円で大幅に上昇するかである。つまり、モノの単価と為替という2つの要素が絡まる。ここでは、為替については取り敢えず考えない。

まず、タイと日本とのコーラの値段の差違をもたらしているものは何かである。原料費(水、電気代、工場の維持費)・物流費・人件費・購買力の差等が一応考えられる。
後輩に聞くとバンコクの女性の日給は最低300バーツ、仮に400バーツとすると、1,320円。日本に置きかえると時給900円で7時間として6,300円。これらの差は4.7倍になる。

人件費の差が反映されているのだということで一応分かった気になるのかも知れない。では、人件費の差は何故生じるのだろうか?
今から20年前の中国で人件費は極めて低かった。それが今や工場を設置するメリットを見いだせないほどに上昇したことを考えれば答えの一端を得られるのではないか?

中国の若い女性と結婚してその子供が今年10歳になる先輩に聞いてみた。
先ず一部地域に先進国からの合弁の工場ができ、農業などと比べて1単位投入労働力当たりの売り上げの大きな(≒利益の大きな)製品、例えば繊維が利益を出し、その見返りを労働者の給料に反映されるように求められ、その範囲が拡大される。それにつれ周辺部分の賃金も上昇する。さらに高次な製品例えば自動車の工場ができ賃金がさらに上昇する、という段階を踏んでいくもののようなのだ。
確かに、戦後の日本で、農業や水産業しか産業がなかった地方に、富士紡や日清紡の工場ができ、そこの工場で働く人々の給料は「女工哀史」(1925年)の昔よりははるかによかった。更に、鉄鋼、造船、化学等の重化学工業が太平洋側に軒並み建設されていった。

私の知人も高校で一番だったそうだが、地銀に入るよりも、当時最も難しかった化学工場に入社したそうである。
つまり、高付加価値を誇る企業群の進出度合い、全産業における高付加価値付与の企業群の比率の程度により全体的賃金も引き上げられていくのではないか?そして、恐らく為替もその幾何かは反映される筈である。

2017.6.20 記