『リベラルな「希望の党」』

千葉の県人 鎌田 留吉

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筆者近影

安倍首相の突然の衆議院解散を契機として、小池百合子東京都知事が「希望の党」を創立し、それに新進党が合流するかと思いきや、「リベラルは排除する」ということでドタバタが始まった。
小池氏が言う「リベラル」とは平和憲法を順守し、安保法制に反対する立場の人という意味のようである。しかし、この「リベラル」という言葉は日本で極めて不分明に使われていて、中身がよくわからないところがある。

そこで、日本とアメリカ、両国で弁護士資格を保有している山口真由氏の「リベラルという病」(新潮選書)(2017.8.20発行)を参考にして「リベラル」と「保守」の意味を分明にしたい。
山口氏はアメリカに於ける「Liberal」政党である民主党(Democratic Party)(以下Lと書く)と「Conservative」政党である共和党(Republican Party)(以下Cと書く)の特徴を以下のように比較している。

  1. 理念;Lは平等を重視し、Cは自由を重視する。
  2. 政府については;Lは大きな政府を志向し、Cは小さな政府を志向する。
  3. 格差社会への対応は;Lは再分配を重んじ、税金を増やして、政府によるコントロールを強め格差是正に努める。Cは自助努力を重んじ、経済は自由な市場に任せるべきであると考える。個人には減税を優先する。
  4. 財政に対する対応は;Lは国家の赤字が膨らみ安い。Cは財政の均衡を求める。
  5. 外交;Lは野蛮な地域に民主主義を布教するのが正義と考える。そのために武力による介入も辞さない。金融緩和による通貨安もいとわない。Cは強いアメリカを標榜し強いドルを指向する。従って金融緩和には否定的である。反共主義の立場に立ち、国防費は増やす。
  6. 社会政策については;Lは女性が自分の人生を選択する権利があると考え、子供を産まない権利を認める。Cはキリスト教を重んじる立場から、胎児の生まれてくる権利を重視する。
  7. 銃規制にかんしては;Lは、規制強化を訴える。Cは政府に対する不信から、自分の手で自分の命と財産と家族を守る権利があると考える。

この基準から日本の政党の状況を考えると、戦後の自由民主党は、(小泉内閣の一時期を除いて)2. 3. 4. の点に於いては明らかに「リベラル」であったことがわかる。思うに米ソが対立していた時代には自由と民主主義を守る自由民主党と共産主義或いは社会主義を標榜する共産党・社会党とが対立し、「保守」と「革新」という色分けがなされていた。

本来自民党は自主憲法の制定を設立理念としていた。それが池田内閣以降、米の核の傘の下、軍備はアメリカに委ね政・官・財一体となり、高度経済成長路線をひた走った。そして「一億総中流社会」をさえ現出させたのである。
しかし、1990年代に入り共産陣営が敗北するに及び、「革新」という言葉が後ろにやられた。自民党は選挙に勝つため本来「革新」が唱えるべき政策をうまく取り込み、(まさに丸山真男氏が指摘するように系統的ではなく、蛸壺が独立的に存在するように、いいとこ取りをして)野党は存在の軸を失い、「反対のための党」に堕していったのである。そして彼らを「リベラル」と呼ぶようになった。

今度の選挙における各党の公約をみても、「これはどの党が言っているでしょう」と、目隠しテストをしても憲法に関わる項目以外は、明確にその党を指摘できる人はいないのではなかろうか?
そして、いまや70年以上続いてきた「憲法」を、「保守」党が「改革」することを訴え、「リベラル」が「順守」を訴えるという、無原則国家を露呈させるに至ったのである。

2017.10.17 記