『孫正義氏の落日』

千葉の県人 鎌田 留吉

運の良い人に近づけ」とは多くの「出世した人たち」の口にすることである。しかし、私は途中で凋落していった多くの人を見ているので、むしろ「福運の尽き切ったひとからは逃げろ!」「逃げて、逃げて、逃げまくれ!」ということを思っている。彼らはブラックホールのように人々を巻き込む。

ソフトバンクグループ(9984)が、保有する携帯電話会社ソフトバンク(9434)を愈々上場させる。親子上場の弊害や、上場以後も60%以上を保有し続けるという、孫氏(写真左=ウイキペディアより)が育ったアメリカでは決して容認されない上場形態であることは百も承知の上のことだろう。

しかし、予め定まっていたスケージュールであるとは言え、余りにもタイミングが悪過ぎる。

  1. 先ず彼が運用指図するソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下SVFと記す)の最大の出資者であるサウジアラビアのムハンマド皇太子(写真右=ウイキペディアより)に新聞記者カショギ氏殺害指示の疑惑が沸き起ってしまった。これでサウジからの追加出資は無論、他の共同出資者も二の足を踏むに違いない。皇太子は石油代金の何十年分を先取りして、サウジアラビアの近代化を急がせる目的で国営石油会社「サウジアラムコ」の上場を数年前から計画していた。その期限は2018年とされていたが、今その話をする人はいない。つまり、皇太子の幸運も今や瓦解しはじめているのだ。
  2. 携帯電話会社の高収益を長らく支えていた電話料金について、菅官房長官が異議を唱え携帯電話会社の株価が大きく下げた環境下の上場であることである。よりによってだ。
  3. 2017年半ばからスタートしたSVFの投資先はAIやロボット並びに半導体等先駆的、正に夢想的な企業群が多いのだが、それら企業群の「理想買い」は明らかに2018年で大天井を付けたと思われる。今年前半にナスダックの上昇を牽引したFANGと称される企業群が雪崩を打って崩落していることはご承知のことだろう。AIやロボットはまだこれからだという人がいることだろうと思う。

しかし今を時めくIT企業群が、その「理想買い」でナスダック市場を暴騰させ5048ポイントをつけたのは2000年3月のことなのだ。その後2002年に1000ポイント台まで下げ、「現実買い」が「理想買い」を上回り、再び5000ポイントをつけたのは2015年のことだった。丸々9年以上上昇しつづけたアメリカの株価はこれから長期の停滞に陥らざるをえないと考えている。つまりSVFは高値つかみした株式をかかえて長い氷河期を暮らすことになる。サウジアラビアの出資の多くは貸付でしかも高利であると聞く。

自分の先見性に溺れた孫氏の落日が明らかに始まったと言えるのではなかろうか?

2018.11.20 記