パウエルプットに反対する

千葉の県人 鎌田 留吉

トランプ大統領を始めとした「利上げ反対!」の大合唱をものともせず、昨年末12月19日にFRBは利上げに踏み切った。それ以来パウエルFRB議長の発言にマーケットは一喜一憂している。

  1. 利上げ時の現状認識は、雇用も経済も力強いとし、19年に2回の利上げを見込んでいた。利上げ以外のもう一つの引き締めであるFRBのバランスシートの縮小については、市場への影響はなく、縮小方針に変更はないとした。この市場に対するタカ派的発言を受け、NYダウは4日間連続して下げ、合計で1883ドルも暴落した。
  2. 年明けの1月4日には一転して、バランスシート縮小方針を見直す可能性に言及した。このハト派的発言を受けてNYダウは5日間連騰し合計で1315ドル上昇した。このパウエル議長の発言については、市場の要求に屈したととらえる向きもある。しかし私は思いの外、彼は「狸」であり腹の中は完璧なタカ派だろうと思っている。
  3. というのは1月10日の発言でバランスシートは「かなり小さくなるだろう」と指摘しているからだ。
  4. また、1月11日に公表されたFRBの議事録によれば、パウエル氏は2013年4月末の時点でQE(量的緩和)プログラムの縮小を6月にも実施すべきだと主張しているからである。彼の「発言」の「真意」はこれからの彼の「行動」で明らかになるであろう。

金融緩和から金融引き締めに転ずると、株式や不動産等の資産価格は下落し始め、市場参加者の悲鳴と怨嗟の声が響き渡る。彼らは金融緩和で大儲けしてきた筈でいつか逆のスパイラルが訪れることは当然知っていた。そして中央銀行の役目が、「皆が踊り続けているパーテイ真っ盛りの最中に、食器を片付け始めることだ」ということも重々承知していたはずだ。市場参加者の叫びはある意味で単なる我が儘に過ぎない。

経済は大きく実体経済と市場経済に分かれる。そしてGDPに反映される実体経済を刺激し活性化するために金融緩和政策は実施される。

しかし、実体経済に火が付くのは遅く、先に資産市場が活気つき株価や地価が上がりだすという特質がある。アメリカ経済は資産価値が実体経済に及ぼす影響が大きいという「信仰」を理由にして、引き締め時に本来実体経済の為に行われていた金融政策に市場経済の側から横槍を入れてくることになる。

市場参加者の我が儘にすぎない「叫び声」に負けてFRBが金融引き締めの手を緩め、或いは緩和にまで至る行為を株価下落時に損失を限定できるプットオプションになぞらえてFRBプットと言われるようになった。

しかし、現在のアメリカの状況は、決してFRBプットを行使する段階ではない。12月24日に21790ドルまで下げて2018年10月の高値26828ドルから18.8%の株価暴落で痛手を被ったという市場参加者達は、それが2009年の3月の安値6547ドルから20281ドル上げた分の24.8%の下げであり、底値からまだ75.1%上にあるのだと考えるべきである。今までに十分儲けた筈ではないか?株価は3倍になったが、GDPは1.41倍になったに過ぎない。彼らはFRBが行う金利引き上げとバランスシートの縮小を金融引き締めと呼ぶ。

しかし歴史的にみれば、異常なまでに行われてきた「超々」という形容詞が付く「金融緩和」は、未だ継続中であり、今は金融正常化の過程というのが正しい。FRBは外野の声を無視して粛々と「正常化」に努めるべきである。

2019.1.16 記